[2024年8月9日]神奈川県高等学校社会科部会歴史分科会高大連携講座
8月6日から8日まで表題の高大連携講座に講師として参加しました。平たく記すと、高校の先生と大学の教員がともに歴史教育と研究について考える会です。中身といえば、三日間、朝9時過ぎから夕方5時過ぎまで、昼休みと休憩を挟んで、授業と討論を繰り返すという、非常に密度の濃い時間でした。プログラム等はこちらで公開されています。
今回の共通テーマは、「18~19世紀のユーラシア中央部」。私は二日目に各地から集った高校生のみなさんと先生方にむけて90分の講義を行いました。高校の教科書にはあまり記されていない時代であり、基礎知識が共有されにくいという点では組み立てが容易ではありませんでしたが、授業後には鋭い質問も飛び交い、大変有意義な時間となりました。一年生も含む高校生のみなさんから、カザン・タタール人やアルメニア人について質問が飛んできて、本当に驚くやら嬉しいやらです(私も高校の頃、イスタンブルのポーランド人コミュニティについての書籍など読んでとても印象に残りました。三つ子の魂なんとやらですが。)。
もう少し具体的に記すと、副題は「創られた「伝統」・変容する地域秩序・生まれ変わる/引き裂かれるアイデンティティ」として、『オスマン第二帝国』から近世と近代の連続性、『黒海の歴史』からロシア台頭による地域秩序の変化、そして、ずっと取り組んでいるアルメニア系ジョージア/グルジア士族エニコロピアン家を題材に、オスマン・イランとロシアの間で揺れるジョージアやアルメニア人社会について解説をしました。
高校生には少し難しくても研究の一端に触れてもらい、視野を広げてもらう、高校の先生方には先端研究の一端に触れていただくという、たいへん挑発的かつ難しいミッションでしたが、こちらもたくさんの研究・教育的な学びを得ることができました。それも三日間ほぼ缶詰で議論を重ねるということで、昨年に続いての参加でしたが、真夏にたいへん貴重な時間を過ごすことができました。
何よりも、すでに共通理解になっているとはいえ、大清帝国やオスマン帝国を例に、未だ人口に膾炙している「アジア的衰退」とか専制言説などに対し、「アジアには自由がなかったのではなくて、ありすぎた」こと、近世から近代にかけて発展を続けて自立的に域内のモダンな成熟した市民社会が築かれていたことなど、前提をきちんと確認できたことは非常に有意義でした。その上で、西洋史の立場からの民主主義概念の近世的展開という刺激的な話も加わって、たいへん勉強になる時間でした。
参加者が100名を優にこえるこの素晴らしい機会を設けて下さった神奈川県の高校の先生方に心より感謝申し上げます。
写真は会場となった神奈川・栄光学園。親しい従兄弟の母校を初めて訪れることができました。
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